2019年10月29日に開催されたUnlimited Miraiに参加しました。
クリプトン創設者の伊藤博之さんによる1時間の講演でした。クリプトンにとって初音ミクとは何であるか、どのような存在にしたいのかといったような内容でした。
初音ミクは仮想楽器であり、キャラクターでもある。仮想楽器 (Virtual Instruments) は、本物の楽器と異なり、個人で扱うことが容易である。
音声合成技術 (Text to Speech) とコンピュータミュージックは、それぞれ単独では特に新規性のあるものではない。一方で、2つを組み合わせた歌唱合成技術は今までになかったジャンルである。そこにキャラクターを組み合わせたのが初音ミク。
創作物を囲い込んで無断使用とみなすのではなく、創作の連鎖を共感 (使ってくれてありがとう) の連鎖にしたい。
著作権に絡んだ問題によって創作の連鎖を萎縮させたくないという思いから、ピアプロ・キャラクター・ライセンスとピアプロを用意。クリエイターには様々な人がいるため、簡単に内容をつかめるよう PCL は要約したものを正文に加えて表示している。また、創作の連鎖を生み出すために、ピアプロの利用規約には投稿物の2次創作を許可する項目を設けてある。
また、初音ミクをサブカルチャーの分野に限定しないために、様々なジャンルのものとコラボしている (ファッションや伝統芸能など)。マジカルミライでは、創作体験を得られるワークショップを開催している。雪ミクは、公募したミクのデザインから、ラッピング電車やグッズ販売など広げている。
クリプトンでは、スタッフによる研究開発を行っている。素早い準備と撤収が求められるレディー・ガガの前座や、冨田勲のイートハーヴ交響曲やマジカルミライ2019などで使った現実に合わせて初音ミクを動かす技術を作った。また、不自然だった初音ミクの喋りのシステムも作った。
会場では30分ほど質疑応答が設けられました。
ミク自体は意思を持たないので、クリエイターがやりたいことを代弁できるようにしていきたい。
PCL の目的は創作を萎縮させないことである。どのコンテンツは良くて何が悪いかの線引きは難しいので、ファンに一任している。
楽器をやっていたから。皆さんと違わない。
ソフトウェアとしての初音ミクができること (機能) の向上によって、クリエイターができることを増やしたい。創作の方向性についてはクリプトンとしてできることはない。
社員のやりたいことの積み重ねが会社なので、何がしたいかを大事にしている。
初音ミクは通常のアーティストと異なり楽器なので、業界的な違和感もあった。伝統芸能やクラシックに参加するのは大変だったが、サブカルチャーに限らない幅広い分野に初音ミクを広げていく。
ニコニコ動画や YouTube などの動画共有サイトの存在が大きい。メイコやカイトが出た頃は、創作物を音楽のコミュニティに投稿するしかなかった。一方初音ミクは音楽だけではなく動画をつけることができた。
初音ミクのモチーフを特定の分野だけにせず、様々な分野に存在を拡散したかった。陳腐化した伝統に初音ミクを入り込ませる。
リアルを突き詰めることは技術的には可能である。初音ミクを声優のクローンにせず、ミクっぽさを残すべきなのではないか?音色やイントネーションは改善すべきだが、ある種のたどたどしさ・機械らしさを残している部分はある。
創作の連鎖を大切にすること、特定の分野に限定しないことが強調されていました。動画から始まりイラストや 3DCG など幅広い分野に広まっていった背景を踏まえたからこその発想なのかなというように思います。
当日は Twitter で内容を実況していた方もいました。#UnlimitedMirai
講演の中で紹介された Google Chrome の広告。創作の連鎖を表現する動画で、Everyone, Creator のキャッチフレーズが印象的です。