先日の24日、NTT グループがインターネット上の海賊版サイトをブロッキングするとのニュースリリースを発表しました。これを見て少し思うところがあったので書きます。(技術的なことはある程度無視させてください)

(前略) サイトブロッキングに関する法制度が整備されるまでの短期的な緊急措置として、海賊版3サイトに対してブロッキングを行うこととし、準備が整い次第実施します。
なお、政府において、可及的速やかに法制度を整備していただきたいと考えています。
http://www.ntt.co.jp/news2018/1804/180423a.html

tl;dr

  • 通信の秘密の観点から見ると基本的にアウト
  • 著作権保護のことを考えると、やりたいことにある程度理解はできる
  • 緊急避難が適用されるかどうか
  • 外堀を埋める手法は使えないのか
  • より良い正規のサービスを作れば良いのではないか

通信の秘密

まず、通信の秘密の観点から考えてみましょう。
インターネットプロバイダ (ISP) が特定の Web サイトへのアクセスを遮断したい場合、次の2つの手段が想定できます。

  • DNS から特定ドメインに関する情報を削除する
  • アクセスしようとした際に、それを検知して通信を遮断する

まず1つ目について説明します。
DNS とは、簡単にまとめると URL から実際の Web サイトの場所を特定できるようにするための情報を集めたサーバーのことです。
ISP は DNS を自前で運用しているので、これのデータを書き換えることはいくらでも可能です。実際に書き換えられた場合、ユーザーから見れば迷惑以外の何ものでもありませんが、自分のサーバーの情報を書き換えるだけの行為には問題ありません。
次に2つ目です。
ユーザーがある Web サイトにアクセスする際には、必ず ISP のネットワークを通過することになります。ISP は自分のネットワークを通過する通信の宛先をチェックし、海賊版サイトへのアクセスを遮断するというわけです。
1つ目の手法については、ユーザーが他の DNS サーバーを使用するように設定することでブロッキングを回避可能になってしまいます。そのため、今回のブロッキングの意味をなしません。そのため、実際にブロッキングが行われるのであれば2つ目の手法が用いられるのはほぼ確実と言っていいでしょう。
さて、先ほど「通信の宛先をチェックし、海賊版サイトへのアクセスを遮断する」の述べましたね。実はここに大きな問題があります。
ISP などの通信事業者は、電気通信事業法という法律を遵守する必要があります。その法律に、次のような項目があります。

第四条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=359AC0000000086

通信の秘密とは、「通信事業者は通信の中身を知ってはいけないし、通信があったことも知ってはいけない」というものです。(参考)
もちろんこれを完璧に守ると、通信事業者は業務を行うことができなくなってしまいます。例えば、どのユーザーが今月どのくらいの通信を行ったかがわからなければ、正しい通信料の請求が行なえませんよね。
そこで、「正当業務行為」に関しては、例外的に通信の秘密を侵すことが認められています。正当業務行為とは、「これをしなければ業務として成り立たない」行為のことです。消防士が消火活動の際に家屋を破壊しても問題にならないのが例に挙げられます。
さて、今回のブロッキングは正当業務行為に含まれるでしょうか?
先程述べたように、正当業務行為とはこれなしには業務が成り立たない行為のことです。ブロッキングを行わなくとも、ユーザーに通信を提供することは可能です。そのため、私は正当業務行為には含まれないと考えます。
次に、「ユーザーの明示的かつ有効な同意を得た場合」を考えてみましょう。
ユーザーの同意を得た場合に限り、通信事業者は通信の秘密を犯すことが可能です。この「明示的かつ有効な」という点がミソです。「よくわからないけど言われたからハンコを押した」「契約書の隅に小さく書かれていた」などは「有効な同意」として認められません。つまり、有効な同意というのは「ユーザーが内容をきちんと理解した上で同意する」ということになります。
現実的に考えると、ISP を利用しているすべてのユーザーからこのような形で同意を取り付けるのは非常に難しいことです。そもそもユーザー数が膨大な上に、ブロッキングについて反対意見を持つ人も存在するからです。
以上のことから、通信の秘密を侵すことは「正当業務行為」とも見なせないし、「有効な同意」を得ることもできません。よって、もし ISP がブロッキングを適用した場合、電気通信事業者法に違反すると結論付けられます。

では著作権はどうなるの?

これまでは通信の秘密の観点から書いてきました。次は、著作権保護の観点から考えてみましょう。
「海賊版サイトはどう見ても著作権を侵害しているのだから、裁判で訴えればいいのに」と思ったことはありませんか?
実は、そうしたくてもできない事情があります。次の2点です。

  • サーバーが日本にない
  • 実際のデータを保管・配信していない
  • ユーザーは著作権法に違反しない

大前提として、日本の法律が有効なのは日本だけです。もし仮に日本で犯罪を犯したとして、他の国の法律で裁かれてしまったら、日本の司法権が意味をなさなくなってしまうのを考えれば分かります。
今回問題となっている海賊版のサイトは、外国にサーバーを設置している場合がほとんどです。そのような現状では、著作権は侵害しているが、日本の法的拘束力が及ばないということになってしまいます。
また、実際のデータを配信しないというのも大きな問題点の一つです。
海賊版サイトの言い分はこうです。「我々はリンクをまとめているだけに過ぎない。実際のコンテンツを置いているわけではないのだから、我々は法律を犯していない。」
どういうことでしょうか。
まとめサイトを考えてみるとわかりやすいと思います。まとめサイトは、他の Web サイトから情報を引用してきて、それを分かりやすくまとめて配信するという手法をとります。今回の海賊版サイトの一部は、建前上「よそから画像を自動的に探してきて表示しているだけ」という立場をとっています。実際のコンテンツを配信していない以上、著作権法では対処がしにくいのです。(プロバイダ制限責任法だとどうなんだろう?)
また、海賊版サイトを利用するユーザーも著作権法上問題がないことになってしまいます。著作権の侵害になるのは、無許可で複製した場合です。「Web ページに表示されているものを眺めているだけ」である状態では、著作権法には違反していることにはならないのです。
これらの現状を考えると、著作権法に違反しない著作権侵害を保護するには、通信レベルで規制するしかないという意見には一定の理解はできます。

「緊急避難」について

実は、通信の秘密を侵しても良い、もう1つの例外が存在します。
「緊急避難」です。
すでに述べたように、緊急避難以外を根拠にして通信の秘密を侵害する場合、電気通信事業者法に違反します。つまり、もしブロッキングを実現するのであれば、現在の法制度では緊急避難を適用するしかないと思われます。
今回の件について、緊急避難が成り立つには次の要素が必要です。

  • 今現在、著作権や得られるはずだった収益が直接の危機に瀕している。
  • 危険は客観的に見て存在している。
  • 危険を回避するために、ブロッキング以外に適切な手法が存在しない。
  • ブロッキングにより侵害される通信の秘密の程度が、危険の程度を上回らない。

相当厳しい条件が求められることからわかるように、これは気軽に適用して良いものではありません。
実は、緊急避難を根拠にブロッキングを認められているものが1つだけ存在します。「児童ポルノ」です。児童ポルノに関してブロッキングを行う際には、年単位の時間をかけて、ブロッキングが適切かどうかの議論が行われました。今回の海賊版サイトについてはどうでしょうか。私はまだ実際にブロッキングを行うほどの域に議論が達しているとは思えません。実際にブロッキングが適用されたとしても、おそらく緊急避難が適用されるかが論点になると思います。

どのように解決するか

今までの議論で、無視し続けてきたことがあります。「外堀を埋める」作戦は取れないのかということです。実は、著作権を根拠に直接海賊版サイトを叩くことが難しくても、他の法律を根拠に、間接的に叩くことは不可能ではないと考えています。例えば次のような例はどうでしょうか。

  • 検索エンジンの結果から除外する
  • 広告の出稿を停止する

現在多くの人に使われている検索エンジンは、著作権侵害を根拠とした検索結果からの削除申請を受け付けています。日本の法的拘束力が直接海賊版サイトに及ぶことがなくとも、検索結果から排除することでアクセスを相当数減らすことが可能です。
広告の出稿を停止するのも有効な手段と言えるでしょう。海賊版サイトを運営するのにもお金はかかります。また、日本向けの海賊版サイトに出ている広告は日本の広告会社が配信している場合が多いです。現在の Web における収益化の主な方法と言える広告を突けば、収益をへらすことは可能ではないでしょうか。

また、海賊版サイトを攻撃するという発想を変えてみるのも手です。
海賊版サイトを利用するユーザーの多くは、著作権を侵害したくてやっているのではなく、コンテンツに触れたいのが主目的ではないでしょうか。もしこれが正しいのであれば、多少使用料が発生するとしても、様々な作品を閲覧できる、使いやすい正規のサービスが登場すれば、自然と海賊版サイトも減っていくことでしょう。

ブロッキングを検討するのは大いに結構ですが、それに固執せず他の手段も模索していってほしいものです。ブロッキングは著作権侵害問題の根本的な解決にはならないのですから。

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